ドクトル・ルチャの本書紹介

メキシコでプロレスラーのマスクが作られて80年の時が流れた。時代を追ってマスカレーロ(マスク職人)の数も、ルチャドールの数も、マスクの種類も増えた。しかし、旧サテン、旧ラメ等、良質素材を使った昔気質の職人たちの技術、それを実戦で使用する一流タレント(レジェンド)たち…それらが合致し、マスクそのものが最も成熟していったのは、1960年代後半から80年代前半の約20年間であろう。本書はこの最盛期に作られたマスクを9人の職人別にセレクトし、まとめたものである。

近年、本場メキシコでも多くのマスク専門の書が発行され、マスクコレクターたちが現れているが、我が日本は彼らより約20年前からルチャドールのマスクに注目し、コレクトし始めていたことは間違いない。それゆえ、日本に現存しているビンテージ(年代物)マスクの数、さらに目利きという意味ではメキシコ人を凌駕しているといえる。

ちょうど2年前に発売となった5冊の職人別の写真集から、さらに進化した形となった本書では、僭越ながらマスク一枚、一枚に解説を入れさせてもらった。その中には実際にマスカラ・コントラ・マスカラで剥がされたものや、有名な試合で使用した現物が多数ある。制作段階で、このマスクよりも、さらにいいものが出れば、次々に差し替え、セレクトにセレクトを重ねたマスクだからこそ、筆にも熱が入った。マスクの履歴、職人別の特徴、今では手に入らない素材の質感、高い縫製技術、デザインの美しさ…それらをトータルして一枚ずつ、じっくり味わっていただければ幸いである。

”ドクトル・ルチャ” 清水勉